服部一成氏インタビュー

服部一成氏による顧客観点の革新的なパッケージ
– デザインを通じた新たな価値の提案 –

コーヒーの新しい価値提案とそれを支える”一味違う“デザイン

COFFEE STYLE UCCは、従来のコーヒー消費者のみならず、新たにレギュラーコーヒー(コーヒー豆、粉からコーヒーを淹れる製品群)を飲用するお客様を開拓することを目的にブランドを立ち上げた。

その差別化ポイントは大きく分けて2つ存在するが、その革新性はデザイナー泣かせの諸刃の剣であった。

1つ目は、徹底的な顧客起点の発想である。当ブランド立ち上げの発端となったのは、現在の「Food with Coffee」ライン。従来、メーカーの間で一般的であったコーヒーの味覚や香りの特徴による差別化ではなく、食べるフードに合わせてコーヒーを選ぶことで食事自体の価値最大化を図るという発想の転換であった。本来、メーカーが主導づらいフードとコーヒーの主従関係の逆転で、より一層顧客に寄り添った考え方となっている。革新的であるがゆえに、新しいコンセプトをデザインで端的に表現する難しさがあった。

2つ目は、わずか6.5センチのフレッシュキューブというUCCオリジナルのパッケージ技術である。ターゲットとなる女性の目には、小さくかわいらしく映るパッケージであるが、わずか6.5cmのパッケージはコーヒーのパッケージではひと際小さく、表現できる情報量が制限されるデザイナー泣かせの形状であった。

そんな状況を逆手にとって、服部氏は見事に素晴らしいデザインを発想した。

CAFE@HOMEのロゴには、幾何学形態の三角形が用いられている。Homeという点から家をかたどる意味もあるが、それ以上に重視したのは三角形が持つ”鋭利さ“である。ブランドコンセプトの鋭さを表現しつつも、鋭角なデザインは売り場で目につきやすく、小さなパッケージにあってもアイコンとしてお客様の印象に残りやすい。コーヒー豆やカップなど、これまでのコーヒーでよく用いられた円形を基軸としたデザインとは一線を画す、”あえてコーヒー感を出さないデザイン”は、CAFE@HOMEブランドの革新性を体現している。

また、小さなフレッシュキューブのパッケージでは、コーヒーの味覚や香りではなく、インテリアやアクセサリー・バッグのように生活の中にある“選ぶ楽しみ”を表現した。白を基調としたデザインのなかに1~2色の華やかな色を使ってシンプルにデザインすることで、コーヒーを飲む時の気分やシーンにパッケージをマッチさせ、消費者の生活に溶け込むことを狙った。

「CAFE@HOME」のデザインは服部一成氏

 

次なる難問は、カーテンが解決

COFFEE STYLE UCCでは、Food with Coffeeの次にLife with Coffeeラインのリリースを決めた。Life with Coffeeとは1日の中の時間帯やシーンにコーヒーを合わせるもので、朝・昼・夕方・夜の4種の製品を開発することとなった。

最初の難問であったFood with Coffeeと同じCAFE@HOMEでありながら、フードと1日のシーンという全く異なるコンセプトを表現する必要があった。この開発には、服部氏もどう表現すればいいか、そのアプローチを悩んだそう。

そんな中、この難題を解決したのは、お客様の生活と時間帯という2つのキーワードからの発想。消費者の家の中にあり、時間帯を表現できるものとして、「カーテン」が思い浮かんだ。窓にかかるカーテンは、朝、昼、夕方、夜とそれぞれに違う活用をされ、1日の中のシーンをうまく象徴している。カーテンによく見られるシンプルなストライプ柄をモチーフにして線の幅やバランスを試行錯誤し、時間帯に合わせた色を選択することで、お客様が直感的に生活シーンをイメージするようなデザインを実現した。

生活に溶け込みながらも時間帯を表現するカーテンに着想した「Life with」

 

デザインして面白いと感じた「お天気シリーズ」

2022年秋、COFFEE STYLE UCCでは、Life with Coffeeラインから「天気」をコンセプトとした製品を開発した。
服部氏は、「天気というコンセプトは、朝昼晩のように明確な定義ができるものではなく、表情が豊かである種のロマンチックさを持つ切り口」になっていると感じた。その上で、既存のLife with Coffeeシリーズの仲間であることは表現しなくてはならない。

この一見相反する性質を、直線的なデザインの踏襲とこれまでにない2色遣いで表現した。

斜めのストライプならば、「太陽光」、「雨」、「空にのびる虹」が表現できるのでは、という思いつきからデザインをスタートした。直線的なデザインは、Life with Coffeeとの共通点となり、太さの異なる2色のストライプとすることで自然の奥行きを表現した。

特に難易度が高かったのは、「虹」。一般的に、虹は多色の半円形で表現されることが多く、これを2色の直線で表現することは難しかったが、服部氏は虹が持つその甘美さなどの意味合いに着目し、「ピンク」色で表現することで解決した。

このデザインが完成したのち、服部氏は、「チョコレートやあめなどの包み紙にはよくカラフルなストライプが使われていたが、コーヒーの商品にこれをうまくマッチさせられたことには、新しい扉を開いたような達成感を感じている」と振り返った。

直線と色合いの組み合わせによる天気の表現「天気シリーズ」

“デザイン”をする上での3つのポイント

服部氏に、質の高いデザインをするために心がけているポイントを3つあげてもらった。

1.顧客視点とメーカー視点のバランス

商品のデザインをする際に、最低限の情報はインプットするが、それだけを考えてしまうと、製品ありきのメーカー視点のデザインになってしまうため、あえて情報は入れすぎない。一方で、常にお客様を想像し、どんな商品が欲しいのか、何に興味を持つかを考えている。両者の視点をバランスよく持ちながらデザインに落し込んでいく。

2.探索的な思考の徹底

加えて、デザインをする際に、その方向性やアウトプットはすぐに固めずに、一定程度時間をおきながら断続的に考え、どんなデザインの方向性・可能性があるかを常に探る思考をしている。こうあるべし!という視野狭窄に陥らないように冷静さを保ちつつ、活用できる時間の範囲で試行錯誤しながら具体的なデザインを形造っている。

3.累積記憶からの発想

具体的なデザインを考える上では、イメージは過去の累積記憶から発想することが多い。記憶というのはこれまでに見てきた単なるデザイン集というわけではなく、何気ない景色や自身の体験を指す。CAFE@HOMEのデザインであれば、カーテンなどのイメージや、幼少期に食べたチョコレートや飴の包み紙が頭に浮かび、デザインを発想するヒントとなっている。

最終的には、デザイン上の細かな制約条件などをクリアするためさらに進化していくが、色や形をまとめるという表面的な行為ではなく、自身の記憶や体験を起点とした活きたイメージをベースとしてデザインしている。

デザインが完成するまでのプロセス

服部一成氏 プロフィール

グラフィックデザイナー。1964年東京生まれ。主な仕事に、「キユーピーハーフ」の広告や、雑誌『流行通信』『here and there』『真夜中』のアートディレクション、「三菱一号館美術館」「弘前れんが倉庫美術館」のロゴデザイン、POLAのV.I.「POLA Dots」、エルメス「petit hのオブジェたち」「夢のかたち Hermès Bespoke Objects」のアートディレクション、『プチ・ロワイヤル仏和辞典』のブックデザイン、ロックバンド「くるり」のアートワークなど。毎日デザイン賞、亀倉雄策賞、ADC賞、東京TDC賞などを受賞。

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